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大阪地方裁判所 昭和33年(行)25号 判決 1965年4月27日

大阪市東区備後町三丁目一九番地

原告

新保株式会社

右代表者代表取締役

新保喜一

右訴訟代理人弁護士

植垣幸雄

右訴訟復代理人弁護士

林田崇

大阪市東区大手前之町一番地

被告

東税務署長

堀井由雄

右指定代理人検事

光広竜夫

右同

大蔵事務官 斎藤義勝

福永三郎

戸上昌則

主文

被告が昭和三一年一一月二九日付で原告の自昭和二九年一月一九日至同年一二月三一日事業年度の法人税についてなした再更正決定中、所得金額二、三六七、六一四円、法人税額九九〇、六六〇円を各越える部分、留保所得金額の全部並びに重加算税五三一、五〇〇円の賦課決定を取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告の求める裁判

1  被告が昭和三一年一一月二九日付を以つて、原告の自昭和二九年一月一九日至同年一二月三一日事業年度の所得金額を五、五二五、二〇〇円、留保所得金額を一、三九四、六〇〇円、法人税額を二、四五六、三一〇円、重加算税額を五三一、五〇〇円となした再更正決定はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の求める裁判

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張とこれに対する答弁

一  原告の請求原因

1  原告は毛織物服地並びに各種繊維製品の販売等を業とする株式会社であるが、昭和三〇年二月二八日被告に対し自昭和二九年一月一九日至同年一二月三一日の事業年度(以下本件事業年度という。)の所得金額を二七、六一四円と確定申告したところ、被告は、原告が簿外資産を隠蔽しているとの理由で昭和三〇年五月三〇日原告に対し青色申告承認の取消をなし、同年六月一〇日本件事業年度の所得金額を三、三二五、二〇〇円、留保所得金額を四、一〇〇円、法人税額を一、三九三、二六〇円、重加算税額を六九二、〇〇〇円とする更正決定(以下本件更正決定という。)をした。原告は右決定に不服であつたが、不服申立期間を徒過したので、やむなく昭和三〇年七月二三日差引法人税額及び延滞利子税額の合計二、一六七、二〇〇円を納付したところ、被告は原告が本件事業年度に右更正所得金額以上に更に多額の簿外資産を隠蔽しているとの理由で、昭和三一年一一月二九日本件事業年度の所得金額を五、五二五、二〇〇円留保所得金額を一、三九四、六〇〇円、法人税額を二、四五六、三〇〇円、重加算税額を五三一、五〇〇円とする再更正決定(以下本件再更正決定という。)をした。しかし右再更正決定は原告とまつたく関係のない池田商店の営業を原告の営業と誤認し、池田商店の収益を原告の簿外収益と認定してこれを原告の所得に加算し所得計算をした結果なされたものであつて、原告は到底承認することが出来ないので、昭和三一年一二月二八日被告に対し再調査の請求をしたところ、該請求は翌三二年六月二七日に棄却された。そこで原告は同年七月六日訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和三三年二月二七日右審査請求は棄却され翌二八日その旨の通知書が原告に送達された。被告のなした本件再更正決定は右のとおり他人の所得を原告の所得と誤認してなした違法な処分であるからその取消を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁並びに主張

1  原告主張の請求原因事実のうち池田商店の営業が原告と無関係であるとの点、並びに本件再更正決定が他人の所得を原告の所得と誤認した違法な処分であるとの点は否認するも、その余の事実は全部認める。

2  被告の主張

(一) 本件更正決定は原告より何等の不服申立なく訴願期間を経過し確定したので、原告は本件更正決定の取消を求めることができない。従つて原告が本訴により取消を求め得るのは本件再更正決定により増加した所得金額二、二〇〇、〇〇〇円並びにそれに対応する所得税額及び重加算税額のみである。即ち法人税法(但し当時施行の法律、以下同じ)第三三条第一項は「政府は、第二九条一項、第三〇条又は第三一条一項の規定により課税標準又は法人税額を更正又は決定した場合においては、前条の通知をなした日から一ケ月後を納期限として、その追徴税額を徴収する。」と規定し、法人税法第二九条ないし三一条による更正又は決定によつて増加した税額のみを徴収することを定めており、又国税徴収法第四二条により「納付すべき金額を告知する」ことになつているが、ここにいわゆる納付すべき金額とは当然に右法人税法第二九条ないし三一条により増加した税額を意味する。従つて更正又は再更正が行政処分としての効力を発する部分は、更正又は再更正により増加した部分についてであり、既に確定した納付すべき税額に係る部分の納税義務は更正、再更正により何等の影響も受けない。

このことは昭和三七年四月国税通則法の制定により、同法第二九条第一項に「二四条又は二六条の規定による更正で既に確定した納付すべき税額を増加させるものは、既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納付義務に影響を及ぼさない。」と規定され、従来の税法上の解釈、取扱を明文化したことからも明らかである。従つて更正等の効力はその処分により変更を生じた増差所得金額又は税額に関する部分についてのみ生じ、後の更正、再更正等の処分は前の申告、更正等とは別個の法律行為として併存すると解するのが相当である。

原告は被告がなした本件再更正決定により先の本件更正決定は取消された旨主張するが、右主張は次の理由により失当である。

(イ) 本件再更正決定は法人税法第三一条の「課税標準又は法人税額の更正又は決定後、更正又は決定した課税標準又は法人税額について、不足額があることを知つたときは、政府の調査により課税標準又は法人税額を更正する。」との規定に基づきなされたものであつて、更正処分のやり直しとは全く別個のものである。更正処分のやり直しは、更正権者がその処分の瑕疵を理由にこれを取消した上あらためて更正処分を行うものであるから、この場合先の処分の効力が全部消滅することは当然であるが、再更正処分は前記規定によつて更正の効力を前提としてその効力を維持しながら新課税基準により追加的に法人税債務を発生させるものであるから、さきの更正の効力が失われることはない。

(ロ) なお、この場合、新課税基準が定められれば旧課税基準はその基準としての意義を失うことは当然であるから、その限りで更正処分は消滅するとしても、再更正の場合は新課税基準が旧課税基準を上廻るものであるから、旧課税基準による法人税債務は新課税基準によつて裏付けられ維持されこそすれ、これによつてその効力まで否定されねばならない理由はないし、更正処分の効力が依然存続するので、既に納付、徴収処分が行われていたときも過誤納金ないし徴収の無効をきたすことはない。

(ハ) 従つて、更正処分については、既に不服申立期間を徒過してこれを争うことができなくなつた以上、これに基づく租税債務はいわば確定されたものであつて、後日再更正につき取消の請求をすることによつても右租税債務を否定することはできないものと云わなければならない。(最判昭和三二年九月一九日第一小法廷判決、民集一一巻九号一六〇八頁。法曹時報九巻一一号一二五頁、国税通則法精解三〇四頁、訟務月報六巻一号一九五頁以下参照)。

(二) 本件再更正決定の理由

(イ) 主たる主張

(1) 被告が原告会社の本件事業年度の所得額を調査したところ、原告が池田栄一名義(仮空名義)で協和銀行大阪南支店に本件事業年度末(昭和二九年一二月三一日)現在において一五七、六七九円の当座予金(以下本件当座予金という。)を有していることを発見した。そして右当座予金は後記のような理由で原告の簿外売上金によるものと認められたので、被告は本件当座予金の期末残高に本件事業年度中に同予金から引出して設定された通知予金、定期予金(以下本件通知予金及び定期予金という。)の期末残高、並びに被告の否認した損金額などを原告の申告所得金額に加算して次のとおり原告の本件事業年度の所得金額を更正した。

申告所得金額 二七、六一四円

池田栄一名義協和銀行南支店当座予金(昭和二九年一二月三一日現在残高) 一五七、六七九円

同名義同銀行通知予金 予金番号A三八 一、〇〇〇、〇〇〇円

右同 予金番号A三九 五〇〇、〇〇〇円

右同 予金番号A四〇 五〇〇、〇〇〇円

無記名協和銀行南支店定期予金 一、〇〇〇、〇〇〇円

被告が否認した損金額仮払金(新保喜一に対して支出したもの) 一二〇、〇〇〇円

現金 二〇、〇〇〇円

以上合計 三、三二五、二九三円

更正所得金額 三、三二五、二〇〇円

(2) 被告は右更正決定後も引続き原告の所得を調査していたところ、原告がその営業所とするため昭和二九年一二月三日訴外有限会社丸勝商店(以下単に丸勝商店という。)より大阪市東区南本町四丁目六〇番地所在の土地及び地上建物(以下本件土地、建物という。)を土地四、五六五、〇〇〇円、建物七三五、〇〇〇円合計五、三〇〇、〇〇〇円で買入れながら原告の帳簿には土地を二、六七〇、〇〇〇円、建物を四三〇、〇〇〇円合計三、一〇〇、〇〇〇円で買入れたかのように記帳し、実際の購入価格と記帳価額との差額土地一、八九五、〇〇〇円、建物三〇五、〇〇〇円合計二、二〇〇、〇〇〇円を本件当座予金より引出して丸勝商店に支払つていることを発見した。右二、二〇〇、〇〇〇円の支出は原告の営業の用に供する土地建物の取得にあてられたものでいわゆる資本的支出であり、これを損金に算入することは出来ないので、被告は右金員を本件更正所得金額に加算して原告の所得金額を五、五二五、二〇〇円に再更正した。

(3) 池田栄一名義の本件当座予金を原告の簿外予金と認定した理由。

(A) 本件当座予金は原告会社が設立された昭和二九年一月一九日より僅か九日後の同年一月二七日開設されており、予金口座名義人の住所地大阪市東区南久太郎町三丁目三番地には池田栄一なる者は居住していなかつた。

(B) 被告が本件当座予金について調査した際、原告代表者代表取締役訴外新保喜一(以下単に新保喜一という。)は同予金が原告の別口予金であることを自認し、その旨の誓約書(乙第一号証)を作成して被告に対し提出し、かつ原告より本件事業年度の決算書の作成を依頼されていた公認会計士税理士訴外中尾勝二(以下単に中尾勝二という。)も又右の事実を認めその旨の上申書(乙第四号証)を作成して被告に提出した。

なお原告は右乙第一、四号証は新保喜一及び中尾勝二の錯誤に基づき作成された旨主張するが、新保喜一は被告係官より十分説明を受けた上右乙第一号証を作成したものであり、かつその内容から見ても原告主張のような錯誤があつたとは到底認められない。又右乙第四号証は中尾勝二が独断で作成したのではなく、右新保喜一の納得を得た上で作成したものであり、且つ右乙第一号証の作成された日から約五ケ月後に作成されたものであるのにそこにも乙第一号証記載の事実が新保喜一の錯誤に基づくものである旨が表示されておらず、かえつて新保喜一の右自認が正確であることを明らかにしているのである。その上後記のとおり原告は後に本件当座予金等をその資産として帳簿に受入れ記入しているのであるから原告の右主張が失当であることは明らかである。

(C) 本件当座予金等を原告の簿外予金と認め、これを原告の申告所得額に加算してなした本件更正決定に対し、原告は何等不服申立をせず、昭和三〇年七月二三日右更正決定による差引法人税及び延滞利子税合計二、一六七、二〇〇円を納付した上、翌年度(自昭和三〇年一月一日至同三〇年一二月三一日)に右更正にかかる増差所得金額のうち一、〇〇〇、〇〇〇円を定期予金、二、二九七、六七九円を新保喜一に対する貸付金として原告の帳簿に受入れ記入し、更に本件再更正決定による増差所得金額二、二〇〇、〇〇〇円のうち本件建物の減価償却費を控除した二、一五二、〇三一円を原告の資産として受入れ記入し、これを繰越利益金として株主総会の承認を得ている。

(D) 被告の係官訴外朝山教治の調査によると原告は本件当座予金をもつて、原告の正規な帳簿に記載されている取引先に支払をしており、かつ本件当座予金には次のような原告振出にかかる小切手が入金されていることが確認された。

イ 入金日昭和二九年一二月九日金額一四六、八〇〇円

原告の備付帳簿によれば右小切手は原告が丸勝商店から買入れた本件土地建物の登記料の支払として振出されたものである。

ロ 入金日昭和二九年一一月二日金額一八〇、〇〇〇円

原告の備付帳簿によれば右小切手は原告が訴外橋本商店に対する商品代金の支払として振出されたものである。

ハ 入金日昭和二九年一二月三〇日金額六五〇、〇〇〇円

又前記のとおり原告が丸勝商店より買受けた、本件土地、建物の代金のうち、二、二〇〇、〇〇〇円が本件当座予金から支払われている。以上の事実は原告が本件当座予金を自己の営業上の取引に使用していたこと、同予金の入金が原告の簿外売上金によるものであることを明らかにものがたつているのである。

(5) 法人税は法人の当該事業年度における増加純資産に対し課せられるものであるところ、法人の当該事業年度における増加純資産額はその期首と期末の純資産の在高を比較することによつて判明する。

本件当座予金が設定されたのは原告会社が設立された昭和二九年一月一九日の九日後である昭和二九年一月二七日であり、昭和二九年一二月三一日(本件事業年度末)現在の右残高は一五七、六七九円であるから原告に、本件事業年度中に右残高に相応する純資産の増加があつたものといわなければならない。又本件当座予金からの出金により設定された本件通知予金、定期予金並びに右当座予金から支払われた本件土地、建物の購入代金二、二〇〇、〇〇〇円も同様の理由で原告の増加純資産を構成するので、右予金等の合計額を原告の申告所得額に加算した。

なお原告は本件当座予金は訴外池田久光(以下単に池田久光という。)がその営業上の収益を預け入れたものである旨主張するが、そのようなことは本件更正決定(昭和三〇年六月一〇日)から再更正決定(同三一年一一月二九日)更に再更正決定に対する再調査決定のあつた昭和三二年六月二七日まで全然聞いたことがない。又若しその主張が真実とすれば池田久光はその営業によつて昭和二九年中に合計三、一五七、六七九円の予金をし、更にその営業上の必要経費とならない本件土地、建物の購入資金に充てるため二、二〇〇、〇〇〇円を右予金より引出しているので、少くとも右年度において合計五、三五七、六七九円相当の所得を得ている筈である。しかるに池田久光の右年度における確定申告所得額は僅か三四八、〇〇〇円に過ぎないから、原告の右主張が理由のないことは明らかである。

(ロ) 予備的主張

(1) 仮りに本件当座予金の入金が原告の簿外売上金によるものでなく、池田商店の売上金によるものであるとしても、同予金の入出金の経過(本件予金の開設時期、本件予金と原告との資金の交流等)本件予金による取引の内容が原告の取扱商品と全く同一の商品を取扱つていること、被告の係官訴外朝山教治の調査によれば池田商店の営業は原告の営業の一部として営まれていることが認められたこと、等を綜合すると、池田商店の営業は実質的には原告の営業の一部であると認めるのが相当である。

原告は池田商店が原告と別個に所得税の確定申告をしているから、同商店は原告と別個独立の営業である旨主張するが、右主張は次の理由で失当である。即ち池田商店の営業所があつた中央建物株式会社共販所内には一千以上の営業名義人が営業しており、かつその移転激しく、第三国人名義による営業所も多数あり、しかも各営業所とも営業に関する帳簿書類等の作成及び保存をしていないので、被告としても右各営業所の所得額及びその帰属者を把握することができなかつた。そこで被告は便宜上右共販所の代表者と話しあつた上、共販所内におかれている売台一台当りの年間所得額の基準を定め、各営業名義人は右基準により計算した金額を一二分し、これに営業期間の月数を乗じて計算した金額を所得額として確定申告し、右基準によつて予め計算した所得税額の月割額を店舗の家賃と合算して毎月共販所の管理人に予け、管理人は所得税の納期に各営業名義人に代つて、その保管にかかる所得税を納付していたのである。池田商店も右と同一の方法で確定申告し、被告もその実態を何等調査せず、右確定申告を受理していたのであるから、池田商店が原告と別個に確定申告をしていた事実から直ちに池田商店が原告と別個独立の営業であるとすることはできない。

(2) 仮りに池田商店の営業が原告の営業の一部でないとしても、池田商店の営業より生ずる収益は法人税法第三一条の三により原告の所得額に加算されるべきである。即ち、池田商店は実質的には原告の代表取締役である新保喜一が経営しており、かつ、原告と同種の営業をしているのである。新保喜一が右営業をなすについて原告の株主総会の認許を受けていないことは明らかであるから新保喜一の右営業は商法第二六四条に違反するものといわなければならない。かかる場合、非同族会社にあつては、会社が株主総会の決議により介入権を行使して、取締役の自己の為めに会社の営業の部類に属する取引によつて得た効果(うべかりし利益)は当然に会社の計算に算入されるのであるが、原告は同族会社であるが為に介入権が行使されず、右のような計算もしていないのである。そのことが法人税の負担を不当に減少させる結果となつていることは言うまでもない。よつて原告の介入権不行使、又はうべかりし利益を会社計算に算入していない計算を否認し、原告が介入権を行使したものとして計算されるところに従つて原告の所得金額を計算すると池田商店の営業上の収益は原告の確定申告所得額に加算されることになる。

(3) 仮に前記主張が理由のないものであるとしても、次のとおり少くとも原告には本件事業年度において本件再更正決定により増加した所得金額に対応する二、二〇〇、〇〇〇円相当の純資産の増加があつたから本件再更正決定は適法である。

(A) 前記のとおり原告が丸勝商店より昭和二九年一二月三日買受けた本件土地、建物の代金のうち、二、二〇〇、〇〇〇円は本件当座予金より支払われているのであるが、右金員は新保喜一が原告に贈与したものと認めるべきである。原告は右金員は新保喜一の原告に対する貸付金である旨主張するが、新保喜一は昭和三七年五月二二日の本人尋問において右金員につき「ただやつたことになるんですけど、しかしまあわたしとしましても、その当時はなんとかこの会社をもりたてて……」と供述しており、また「会社の将来の発展のために貢献する気持でやつたのであり、返してもらわなくともこれはやむをえない」旨と述べていること、原告に対する貸付金であれば原告の帳簿に債務として記帳しなければならないのにその記帳をせず、かえつて右二、二〇〇、〇〇〇円から本件建物の減価償却費を控除した二、一五二、〇三一円を原告の繰越利益金として受入記帳し、株主総会の承認を得ている事実から見て原告の右主張が失当であることは明らかである。

(B) しかして法人税法上所得金額は同法第九条一項により「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額」と定められており、その総益金及び総損金の内容は法令により別段の定めのあるもののほか、資本の払込以外において純資産増加の原因となるべき一切の事実をいい、総損金とは法令により別段の定めあるもののほか、資本の払戻又は利益の処分以外において、純資産減少の原因となるべき一切の事実をいう(基本通達五一、五二)ところ原告においては昭和二九年一二月三日新保喜一より贈与された右二、二〇〇、〇〇〇円が原告の純資産増加の原因となつていることは明らかであり、右贈与を総益金より除外する旨の別段の規定もなく、又、資本の払込とも認められないので、右贈与(受贈益)は法人税法第九条に規定する総益金に該当するものといわなければならない。

(C) 仮に右主張が認められないとしても前記のとおり原告は本件事業年度において本件土地、建物を丸勝商店より五、三〇〇、〇〇〇円で買受けながら、その代金として三、一〇〇、〇〇〇円しか払つていない。従つて右土地、建物は評価額五、三〇〇、〇〇〇円として貸借対照表資産の部に計上されるべきであるにも拘らず、評価額三、一〇〇、〇〇〇円として計上されているのであるからその差額二、二〇〇、〇〇〇円は原告の資産増として総益金に追加加算されるべきである。

(三) 留保所得金額、法人税額及び重加算税額の計算

(イ) 課税の対象となる留保所得金額一、三九四、六〇〇円

原告は法人税法第七条の二所定の同族会社であるから課税の対象となる留保所得金額は法人税法第一七条の二第一項により留保金額と当該事業年度終了の日における積立金の合計額から原告の資本の四分の一相当額又は一、〇〇〇、〇〇円のいずれか多い金額を控除した金額である。

(1) 留保金額

留保金額は法人税法第一七条の二第一項により当該事業年度の所得金額から当該所得に対して課せられるべき法人税額(但し留保所得に対する税額に係る重加算税額を除く。)府民税額、市民税額及び原告会社が費用として支出した金額で所得の計算上損金に算入されない金額(社外流出額)の合計額を控除した金額による。

(A) 原告の本件事業年度の所得金額は前記のとおり五、五二五、二九三円である。

(B) 右所得金額に対する法人税額は二、七七八、八五二円である。

国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律(以下単に端数計算法という。)第五条により前記所得金額五、五二五、二九三円のうち九三円を切り捨てた五、五二五、二〇〇円に法人税法第一七条一項一号所定の百分の四二の税率を適用した金額二、三二〇、五八四円から原告が所得税法第一八条の規定により納付した所得税額三、七三二円を控除した二、三一六、八五二円に法人税法第四三条の二第一項により計算した重加算税額四六二、〇〇〇円(本件再更正決定による増差所得金額二、二〇〇、〇〇〇円につき法人税法第一条一項一号所定の百分の四二の税率を乗じた二四、〇〇〇円(重加算税額計算の基礎となる法人税法第三三条一項の追徴税額)に同法第四三条の二第一項の規定による百分の五〇の税率を乗じて計算した額。)を加算した金額である

所得金額 税率 納付所得額 重加算税額

算式 <省略>

(C) 府民税額一一六、六二九円

前記所得金額に法人税法第一七条一項一号による百分の四二の税率を乗じて計算した二、三二〇、五八四円につき法人税割の税率千分の五〇の割合を乗じた一一六、〇二九円(法人税割)に均等割六〇〇円を加算した金額

所得金額 税率 法人税割の税率 均等割

算式 <省略>

(D) 市民税額、一七六、四四三円

右地方税の課税標準額二、三二〇、五八四円に対し法人税割の税率千分の七五の割合を乗じた一七四、〇四三円(法人税割)に均等割二、四〇〇円を加算した金額。

課税標準額 税率 均等税割

算式 <省略>

(E) 費用として支出した金額で所得計算上損金に算入されない金額(社外流出額) 五八、七三二円

原告が所得税法第一八条の規定により納付した所得税三、七三二円と役員賞与金五五、〇〇〇円との合計額。右はいずれも税法上、損金算入が認められないので原告が確定申告書において所得に加算していたものである。

従つて、原告の留保金額は次のとおり二、三九四、六三七円となる。

(A) 所得金額 (B) 法人税額 (C) 府民税額 (D) 市民税額 (E) 社外流出額

算式 5,525,293円-(2,778,852円+116,629円+176,443円+58,732円)=2,374,637円

(2) 原告の本件事業年度終了の日における積立金額は零である。

(3) 原告の資本の四分の一相当又は一、〇〇〇、〇〇〇円のいずれか多い金額(控除額)原告の資本金は三、〇〇〇、〇〇〇円であり、その四分の一相当額は七五〇、〇〇〇円であるから、原告の資本金の四分の一相当額より、一、〇〇〇、〇〇〇円の方が多い金額である。従つて原告会社の課税の対象となる留保所得金額は次のとおり一、三九四、六〇〇円である。

(1) 留保金額 (2) 積立金額 (3) 控除額

算式 (2,394,637円+0円)-1,000,000円=1,394,637円

(ロ) 法人税額二、四五六、三一〇円

前記本件事業年度の所得金額に対する法人税額二、三一六、八五二円に、前記留保所得金額に対する法人税額一三九、四六〇円(留保所得金額一、三九四、六〇〇円-端数計算法第五条により(イ)の留保所得金額一、三九四、六三七円のうち三七円は切り捨て-に法人税法第一七条の二第一項の規定による百分の一〇の税率を乗じた金額)を加算し、これから法人税法第一〇条一項にもとずき原告が既に納付した前記所得税三、七三二円を控除した金額二、四五六、三一二円が本件事業年度の法人税額であるが、右二、四五六、三一二円のうち二円は端数計算法六条により切り捨てとなるので、原告会社の法人税額は二、四五六、三一〇円となる。なお原告会社は前記のとおり本件更正決定に基づき一、三九三、二六〇円を納付済みであるから、本件再更正決定により追徴される税額は一、〇六三、〇五〇円である。

(ハ) 重加算税額五三一、五〇〇円

本件再更正決定に基づき追徴される右法人税額(法人税法第三三条一項による追徴税額)一、〇六三、〇五〇円は前記のとおり仮装された事実に基づく税額であるから、同法第四三条の二第一項の規定により右追徴税額(但し法人税法第四三条の二第四項に基づき一、〇六三、〇五〇円のうち千円未満の五〇円は切り捨てられる。)に百分の五〇の税率を乗じた金額五三一、五〇〇円が重加算税額になる。

再更正法人税額 更正法人税額 税率

算式 <省略>

(四) 以上の次第で被告が昭和三一年一一月二九日原告会社に対してなした本件再更正決定は適法であるから原告会社の本訴請求は棄却されるべきである。

三  被告の主張に対する原告の答弁並び反駁

1、原告の答弁

被告主張の二の2の(一)は争う。同二の2の(二)の(イ)の事実のうち被告主張のような理由で本件更正及び再更正決定がなされたこと、原告が被告主張の日時に丸勝商店から本件土地を四、五六五、〇〇〇円、本件建物を七三五、〇〇〇円で買受けたが、右代金合計五、三〇〇、〇〇〇円のうち二、二〇〇、〇〇〇円の支払に本件当座予金から引出された金員を充てたこと、本件更正決定が確定し原告が被告主張の法人税額を納付したこと、被告主張の日時に本件更正決定にかかる所得金額を原告の帳簿に受入記入したことは認めるもその余は否認する。同二の2の(二)の(ロ)の事実のうち原告が法人税法第七条の二所定の同族会社であることは認めるもその余は否認する。同二の2の(三)の主張のうち留保所得金額及び法人税額の計算方法原告が所得税法第一八条の規定により納付した所得税額が三、七三四円であること、原告の留保金額の計算の基礎となる社外流出金が右所得税額と役員賞与五五、〇〇〇円の合計額であること、原告の本件事業年度終了の日における積立金額が零であること、原告の資本金が三、〇〇〇、〇〇〇円であることは認めるもその余は否認する。

2  原告の反駁

(一)(イ) 昭和三一年一一月二九日になされた本件再更正決定は同二九年六月一〇日付の本件更正決定を取消す処分を含むものと解すべきであり、単なる不足額の追加決定と見るべきでない。被告主張のように本件再更正決定に基づき、同決定により増加した所得金額に対応する追徴税額の納付告知があつたことは認めるが、このことから直ちに再更正決定の効力を前提としてその不足額だけを追加する処分であるとするのは正当でない。右追徴税額の納付告知は単に納付済の税額を差引計算する旨を示したに過ぎないからである。

仮に再更正決定の性質が再更正決定の効力を前提としてその不足額だけを追加するものであるとすれば、原告はその追加部分の取消を求める。

(ロ) 被告は池田栄一名義の本件当座予金を原告の簿外予金であると認定し、その期末残高を原告の所得に加算して本件更正決定をしたのであるから、その後に本件当座予金から引出された二、二〇〇、〇〇〇円が本件土地、建物の購入資金に充当されたことを知つたとしても、原告に先の更正決定で認定した資産以外の新たな資産が発見されたとして、法人税法第三一条により再更正決定をすることは許されない。即ち法人税法第三一条にいう「不足額を知つたとき」に該当する新たな資産というのは、本件の場合、本件当座予金等とは全く関係のない原告の簿外資産を発見した場合でなければならないのに、被告は前記のとおり本件当座予金から引出された金員の使途を理由に本件再更正決定をしたのであるから、同再更正決定が法人税法第三一条に違反することは明らかである。

(二)(イ) 被告主張の本件当座予金は池田商店こと池田久光のものであり原告の簿外予金ではない。池田久光は後記のとおり昭和二八年一〇月頃から同二九年一〇月頃まで、大阪市東区南久太郎町四丁目一番地中央建物株式会社共販所において繊維製品の販売を行い、その金銭の出納のために本件当座予金を開設し銀行取引をしていたのである。

被告は原告が本件当座予金を自己の営業上の取引に使用していた旨主張するが、そのような事実は全くない。本件当座予金に被告主張の各小切手が入金されていることは認めるが、それは次の事情によるものである。

(1) 被告主張の(イ)の小切手は原告が丸勝商店から買入れた本件土地、建物の所有権移転登記登録税一四三、六五〇円と司法書士に対する手数料並びに雑費三、一五〇円の支払のために振出されたのであるが、登録税納付のために必要な収入印紙は小切手では買えないので、池田久光より立替払をしてもらつたうえ、右小切手を本件当座予金に入金したのである。

(2) 被告主張の(3)の小切手は訴外橋本商店に対する商品代金の支払として振出されたものではなく、丸勝商店に対する本件建物の昭和二九年一〇月分の賃料八〇、〇〇〇円並びに本件土地、建物の代金内金一〇〇、〇〇〇円の支払のため振出されたものである。

(3) 被告主張のハの小切手は池田商店が取引先の訴外三隆株式会社から代金支払の方法として受領したものである。池田商店が取引上他店から原告の小切手を受取つたとしても流通証券たる小切手の性質上何等不思議はない。

(4) 本件当座予金から引出された二、二〇〇、〇〇〇円が原告会社の本件土地、建物の購入代金の一部に充当されたことは事実であるが、これは当時設立後日浅く、財政的基礎の脆弱であつた原告に、その代表取締役である新保喜一が資金的援助を与える方法として、池田久光の了解のもとに、池田久光が本件当座予金から引出した金員を本件土地、建物の購入代金に充当したのである。

被告の係官訴外朝山教治は原告が本件当座予金を自己の営業上の取引に使用していた旨証言しているが同訴外人は本件当座予金につきその前提となる取引全部を調査したのではなく、多分に同訴外人の推測を根拠として右のような証言をしているのであるから信憑性がない。

(ロ) 被告は乙第一、四号証をもつて新保喜一及び中尾勝二が本件当座予金、通知予金及び定期予金が原告会社の簿外予金であることを自認したかのように主張するが、新保喜一、中尾勝二がかかる事実を認めたことはない。乙第一、四号証は被告の係官が新保喜一及び中尾勝二に対し、「新保喜一は原告に対し商法第二六四条のいわゆる競業避止業務を負つているから、新保喜一の経営する池田商店の営業による収益は当然原告に帰属する、本件当座予金等は法人税法第七条の三、三一条の三により原告に帰属するものとみなされる」旨の誤つた説示をし、法律の専問家でない新保喜一及び訴外中尾勝二を誤信せしめた結果誤つて作成されたものであるから、その記載は真実に反している。

(ハ) 被告主張のとおり原告は本件事業年度の翌年度に申告所得金額と更正所得金額の増差額を新保喜一に対する貸付金等の名義で、原告の張簿に受入れ記入して決算報告書を作成したが、これは右更正決定の理由を正当なるものとして認めたためではない。ただ原告が本件更正決定の確定によりやむなく納付した税額(これは当時原告にその資金がなかつたので新保喜一個人が調達した。)を会社帳簿に受入れ記入するためそのような体裁を取つたのである。又原告が本件再更正決定による増差所得金額二、二〇〇、〇〇〇円のうち建物の減価償却費を控除した二、一五二、〇三一円を繰越利益剰余金として原告の資産に受け入れその旨の決算報告書と作成しているがこれは本件再更正決定を正当なものとして認めたためではなく、専ら帳簿上の体裁を整えるためそのような手段を取つたのである。

(ニ) 被告は本件通知予金及び定期予金が本件当座予金より引出された金員によつて設定された旨主張するが、そのような事実はない。後記のとおり新保喜一は新保商店という商号の下で昭和二六年一月頃より同二八年一二月頃まで繊維品の取引を行つていたがその当時新保商店の金銭出納を協和銀行大阪南支店における新保良一名義の当座予金によつて処理していたが、新保商店の廃業後の昭和二九年一月二九日右当座予金を解約し、右当座予金より引出した金員をもつて本件通知予金を設定した。又新保喜一は原告会社設立前より無記名或は新保良一名義で多額の定期予金を有していたので、右新保良一名義の当座予金並びに定期予金より引出した金員を以て本件定期予金を設定したのであり、右通知予金及び定期予金はいずれも原告と無関係のものである。

(三)(イ) 被告は池田商店の営業は実質的には原告の営業の一部である旨主張するがそれは全く真実に反する。池田商店の経営者は池田久光であり、同商店の営業は次のとおり原告と関係がない。即ち新保喜一は新保商店という商号の下で、昭和二六年一月頃より同二八年一〇月頃までは大阪市東区北久太郎町三丁目三番地大阪繊維共同販売所内において、同月以後は同市同区南久太郎町四丁目一番地中央建物株式会社共販所において、個人で繊維品の販売業を営んでいたが、昭和二八年一二月頃原告会社を設立することになり、新保喜一がその代表取締役になることが予定されていたところ、このまま右新保商店の営業を継続するときは同業種の関係から原告との業務の混同を生ずる虞れもあるので、新保商店を廃業することにし、当時新保商店にあつた八、二一〇、〇〇〇円相当の商品を有利に換価するため、かつて資金援助をし、或は雇傭したこともある池田久光に右新保商店の営業を承継させることにした。そこで池田久光はその頃新保商店の右在庫商品を引続き、もと新保商店の店舗があつた中央建物株式会社共販所内の店舗を借受け池田商店という商号で繊維品の販売業を開始し、右八、二一〇、〇〇〇円相当の在庫商品を売捌くかたわらその販売代金で商品を仕入れ、店員六、七名を使用し、日々の売上仕入等は伝票に基づいて整理しその状況を毎日新保喜一に報告し、売上金は池田栄一名義で協和銀行大阪南支店に予金し(これが本件当座予金)仕入代金の支払のため手形を振出す場合は池田商店名義で振出し、右池田商店の経費(雇人給料、店舗の家賃、公租公課)等は総て右商店の営業収入によつて賄つていたが、昭和二九年一〇月頃新保喜一から引継いだ右在庫商品もあらかた売りつくしたのでその営業を廃し、昭和二九年一二月原告に入社した。

一方原告は昭和二九年一月一九日資本金一、五〇〇、〇〇〇円、営業所大阪市東区南本町四丁目六〇番地、当初の商号株式会社新保羅紗店、代表取締役新保喜一として設立されたが、右新保商店との混同を避けるためその営業は右払込資本金及び別途調達資金並びに代表取締役たる新保喜一の個人的信用を基礎として運営され、新保商店の資産は全く承継されなかつた。

以上のとおり池田商店は原告と別個独立の営業であり、池田商店こと池田久光は原告と別個に被告に対し所得税の確定申告をし、被告は池田久光を池田商店の経営者と認めて原告とは別個に所得税を徴収していたのであるから、今更池田商店の営業を原告の営業であると主張することはできないはずである。

仮に被告の右主張が認められるとしても、一事業年度の純収益は当該事業年度の期首と期末の資産及び負債を比較してその過不足を計算して算出すべきであるところ、池田商店は前記のとおり本件事業年度期首において八、二一〇、〇〇〇円相当の商品を有していたのであるから、期中にこれを現金化した結果多額の銀行予金を有していたとしても右予金の期末残高をもつて本件事業年度の純収益とすることはできないはずである。従つて本件当座予金、通知予金及び定期予金の期末残高及び期中に引出された二、二〇〇、〇〇〇円を取り出し、その合計額を池田商店の本件事業年度における純収益とする被告の主張は失当である。

(ロ) 被告は、池田商店は実質的には原告の代表取締役である新保喜一が経営していること、池田商店が原告と同種の営業をしていることを理由に、新保喜一の右営業は商法第二六四条に違反する旨主張するが、前記のとおり新保喜一は原告会社設立前にその個人財産である繊維品の処分方を池田久光に託したにすぎないから被告の右主張は失当である。

仮に被告の右主張が認められるとしても、法人税法第三一条ノ三に基づき右池田商店の収益を原告の所得金額に加算することは許されない。なんとなれば、たとえ池田商店の営業が競業避止義務に違反しているとしても、右営業は商法第二六四条三項に基づき、原告の株主総会が、右営業を原告のためになされたものと看做す旨の決議をし、介入権を行使することによつて、原告のためになされたものとして扱われるに止まる。しかも介入権行使の結果は、取締役が取得した財産又は利益を会社に引渡す義務を生ずるだけで物権的に取締役の財産が会社に帰属するものでないからである。(最高昭和二四年六月四日第二小法廷判決民集三巻七号二三五頁参照。)又法人税法第三一条の三の具体的運用については大蔵省通達第三五五ないし三五七に詳述されているが、本件の場合はその何れにも当らないばかりでなく被告の右主張は実質課税の原則を無視する暴論である。

(ハ) 被告の予備的主張のうち原告が訴外新保喜一から二、二〇〇、〇〇〇円の贈与を受けたとの主張は時機に遅れて提出された攻撃又は防禦方法であるから当然却下されるべきである。仮にしからずとしても、新保喜一が被告主張の日時に原告に対し本件土地建物の購入代金二、二〇〇、〇〇〇円を贈与したことはない。本件当座予金から引出された二、二〇〇、〇〇〇円が本件土地、建物の購入代金の一部に当てられたこと、原告の帳簿に新保喜一から右金員を借入れた旨の記載がないことは事実であり、原告代表者本人尋問中には新保喜一が右金員を原告に贈与したものの如く疑われる供述部分がないでもないが、その他の供述部分で明らかなとおり、新保喜一は原告とかかる贈与契約を締結したことなく、又右金員の返還請求権を放棄したこともない。新保喜一は原告会社代表取締役として原告の事業の発展を願い、将来会社が発展すれば右支出額以上のものが自己に対する高い給与又は報酬の形で戻つてくることを期待して右金員を原告に融資したのであるが、丸勝商店の要望で圧縮契約をしたので、右融資の事実を原告の帳簿に記載することができなかつたため、右貸付金の返還時期及びその方法が明確でないにすぎないのである。なお被告は本件当座予金が原告の簿外予金であるとして本件更正決定をしたのであるから右更正決定の適法性を主張しその効力を維持する限り、右予金より引出された右二、二〇〇、〇〇〇円を原告が他人から贈与されたと主張することはできないはずである。故に原告が右金員の贈与を受けたことを前提とする被告の主張は論理上矛盾し、事実にも反するから失当である。

第三当事者双方の証拠の提出、援用及び認否

一  原告の証拠の提出、援用及び認否

1  甲第一号証の一なしい一九、第二号証の一、二、第三号証、第四、五号証の各一、二、第六ないし二二号証を提出

2  証人池田久光、中尾勝二、宇戸哲郎(以上各一、二回)西村薫二郎、田淵正一、西端秋男、梅本健男の各証言並びに原告代表者本人尋問(第一、二回)の結果を各援用。

3  乙第四号証、第六号証の一の成立は不知その余の乙号各証の成立は全部認める。

二  被告の証拠の提出 援用及び認否

1  乙第一ないし四号証、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし七号を提出。

2  証人宮崎勉三及び朝山教治(第一、二回)の証言を各援用。

3  甲第九、一〇号証の成立は不知その余の甲号各証の成立は全部認める。

理由

一  原告が毛織物服地並びに各種繊維品の販売を業とする株式会社であること、原告が昭和三〇年二月二八日被告に対し本件事業年度の所得金額を二七、六一四円と確定申告したところ、被告は原告が簿外資産を隠蔽しているとの理由で昭和三〇年五月三〇日原告に対し青色申告承認の取消をなし、同年六月一〇日本件事業年度の所得金額を三、三二五、二〇〇円、留保所得金額を四、一〇〇円、法人税額を一、三九三、二六〇円重加算税額を六九二、〇〇〇円とする更正決定をしたこと、右更正決定は不服申立期間を徒過し確定したので、原告は昭和三〇年七月二三日差引法人税額及び延滞利子額の合計二、一六七、二〇〇円を納付したところ、被告は原告が本件事業年度に右更正所得金額以上に更に多額の簿外資産を隠蔽しているとの理由で、昭和三一年一一月二九日本件事業年度の所得金額を五、五二五、二〇〇円、留保所得金額を一、三九四、六〇〇円、法人税額を二、四五六、三〇〇円、重加算税額を五三一、五〇〇円とする再更正決定をしたこと、原告が右再更正決定につき昭和三一年一二月二八日被告に対し再調査の請求をしたところ、該請求は翌三二年六月二七日に棄却されたので、更に同年七月六日訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和三三年二月二七日右審査請求は棄却され翌二八日その旨の通知書が原告に送達されたことは当事者間に争がない。

二  被告は、本件更正決定は不服申立期間の徒過により既に確定しており、本件再更正決定の効力はその処分により変更を生じた増差所得金額又は税額に関する部分についてのみ生ずるから、原告が本訴によつて取消を求め得るのは本件更正決定により増加した所得金額二、二〇〇、〇〇〇円並びにそれに対応する法人税額のみである旨主張するので先ずこの点につき判断する。

被告は、政府が法人税法第二九条一項、第三〇条又は第三一条の規定により課税標準又は法人税額を更正又は決定した場合、更正又は決定に基づく増差税額を追徴するのであつて、更正又は決定された税額全額を改めて徴収するものではないこと、当初の申告又は更正が、更正又は再更正された場合でも、当初の申告又は更正に基づく税額の徴収手続(税額の納付告知、納付、滞納処分等)は有効であり、従つて当初の申告又は更正に基づき既に税額が納付或は徴収されていたとしても、過誤納金の返還ないし徴収処分の無効の問題は生じないこと、昭和三七年四月一日施行の国税通則法第二九条一項には「第二四条(更正)又は第二六条(再更正)による更正で既に確定した納付すべき税額を増加させるものは、既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない。」旨規定されていることから、更正又は再更正の効力はその処分により変更を生じた増差所得金額又は税額に関する部分について生じ、既に確定した申告又は更正に基づく課税所得金額又は税額は後の更正又は再更正により何等の影響もない(後の更正、再更正等の処分は前の申告、更正等の処分とは別個の法律行為として併存する。)旨主張するが、法人税第二九条又は三一条に基づく課税標準又は税額の更正又は再更正は、調査により判明した結果に基づいて当該年度分の課税標準又は税額を決定する処分であつて、当初の申告又は更正をそのまゝとして脱漏部分だけを追加するものではない(最判昭和三二年九月一九日第一小法廷判決、民集一一巻九号一六〇九頁参照)から、本件再更正決定の効力はその処分により変更を生じた増差所得金額及び税額に関する部分についてのみ生ずるとする被告の主張は理由がない。

もつとも政府が法人税法第三一条の規定により課税標準又は法人税額を再更正した場合、同法第三三条一項により再更正に基づく増差税額のみを追徴するのであつて、再更正税額全額を改めて徴収するものではないが、これは再更正された課税価格に基づく税額が当初の更正による課税価格に基づく税額を上廻つている場合において、再更正により確定すべき税額の納付義務のうち当初の更正に基づく税額に対応する部分は、当初の更正により既に一応確定していた納付義務をそのまゝ据え置き、その部分に対し既に開始せられ又はせらるべき徴収手続を既往に覆すことなくこれを有効視し新たに確定した税額による増差額分だけの徴収手続を履むこととしても、徴収手続の上に何ら支障はなくかえつてその迅速簡易化に資するとの考え方から、後の再更正が当初の更正を一旦消滅させてこれにとつて代えられるものであるとしても、徴収手続きの段階における具体的納付義務の点にかぎつては、既に発生した納付義務はこれをそのまゝに存続せしむることとしたものと解せられるところである。そして国税通則法第二九条一項も更正又は再更正によつて「既に確定した納付すべき税額を増加させるものは、既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない」と規定し、申告若しくは当初の更正により一応確定していた課税標準額又は税額の公定力そのものについては直接触れる規定の仕方をしていないのであるから、この規定自体から再更正処分は当初の更正処分による課税標準額又は税額との増差額部分のみを確定する処分で当初の更正処分はそのまゝに存続すると解することは適切でない。のみならず、本件再更正決定は国税通則法施行前になされたものであるからその効力を同法に基いて判断することも適切でない。

よつて、これらの規定のあることは、前記再更正処分の効力を当該年度の所得金額及び税額を改めて決定する処分であると解する妨げとはならない。

以上の次第で本件再更生決定は原告会社の本件事業年度の所得金額及び税額を改めて決定する処分であると解せられるから、原告の本件事業年度の所得金額が五、五二五、二〇〇円以上であるとの立証がなされない以上本件再更正決定は取消を免れない。

三  被告の主たる主張について

被告は本件当座予金、通知予金及び定期予金が原告の簿外予金である旨主張し、原告は、本件当座予金は池田商店こと池田久光に、本件通知予金及び定期予金は新保喜一個人に帰属するものである旨主張するので先ずこの点につき検討する。

成立に争のない甲第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六ないし八号証、第一一ないし一三号証、原告代表者本人尋問(第一回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第九、一〇号証に証人池田久光、同中尾勝二、同宇戸哲郎、同朝山教治(いずれも第一、二回)の各証言、証人西村薫二郎、同田淵正二、同西端秋男の各証言、原告代表者本人尋問(第一、二回)の結果(但しいずれも後記認定に反する部分を除く。)を綜合すると、新保喜一は昭和二六年一月頃より同二八年九月頃までは大阪市東区北久太郎町三丁目三番地大阪繊維共同販売所において、それ以後は同市南久太郎町四丁目一番地中央建物株式会社共販所(通称中央繊維共販所)において新保商店又は新保羅紗店の商店の下に個人で毛織繊維品の販売業(以下単に新保商店の営業という。)を営み協和銀行南支店の新保良一名義の当座予金により金銭の出納を行つていたが、昭和二八年一〇月頃新保商店の営業と別個に毛織繊維品の販売を目的とする原告の設立を計画したところ、原告と右新保商店は同一業種で商号が類似しており、しかもその主宰者がいずれも新保喜一である間係から取引の混同を生ずる虞れもあるのでその頃新保商店の商号を廃止し、大阪繊維共同販売所当時の同業者であつた池田久光を雇傭し、池田商店こと池田久光名義で右新保商店の営業を継続することにした。そこで池田久光は新保喜一がかねて賃借していた中央建物株式会社共販所内の売台において、店員二、三名を使用し新保商店から引継いだ約八、二一二、二五二円相当の毛織繊維品を売捌くかたわらその販売代金で商品を仕入れ、日々の売上は伝票に基づいて整理し、これを売上金とともに新保喜一方に持参して営業状況を報吾していたこと、新保喜一は昭和二九年一月前記新保良一名義の当座予金を解約し、改めて協和銀行大阪南支店の池田栄一名義の当座予金口座(本件当座予金)を開設して、池田商店の日々の売上を同口座に入金し、仕入金及び池田商店の経費は本件当座予金より引出した金員で支払い、昭和二九年一月二七日以降同年一二月三一日迄の間に本件当座予金より引出した金員をもつて本件通知予金及び定期予金を設定し、池田商店こと池田久光名義で被告に対し所得税の確定申告をし、所定の所得税額を被告に納付していたが、昭和二九年一〇月頃右約八、二一二、二五二円相当の在庫商品も殆んど売り尽くしたので、池田商店の営業を廃止し、池田久光を昭和二九年一二月頃原告に入社せしめたこと。一方原告は昭和二九年一月一九日資本金一、五〇〇、〇〇〇円、営業所大阪市東区南本町六〇番地、当初の商号株式会社新保羅紗店(昭和三〇年三月七日新保株式会社に商号を変更した。)代表取締役新保喜一として設立されたが、新保喜一は前記のとおり新保商店の在庫品を池田商店名義で別途に処分する計画であつたから原告に対しては三〇〇、〇〇〇円の現金出資をしたのみで手持商品を現物出資しなかつたので、原告は払込資本金、借入金及び代表取締役たる新保喜一の個人的信用を基礎として運営されたことが認められ、右認定に反する前掲証入朝山教治及び池田久光の各証言並びに原告代表者本人尋問の結果は信用できない。

もつとも成立に争のない乙第一、四号証に証人朝山教治、同中尾勝二(いずれも第一、二回)及び証人宮崎勉三の各証言並びに原告代表者本人尋問(第一、二回)の結果(但し後期認定に反する部分を除く。)を綜合すると、新保喜一は東税務署法人税課係員訴外朝山教治(以下単に朝山教治という。)より本件当座予金の帰属関係につき調査されたさい、本件当座予金が原告の簿外予金であることを認め、「今後かゝる不正行為は絶対に行ないません」旨記載した誓約書(乙第一号証)を被告に提出したこと、又本件更正決定後、東税務署法人税課係員訴外宮崎勉三(以下単に宮崎勉三という。)が原告会社の顧問税理士である中尾勝二に本件土地、建物購入代金の資金源を問い糺したところ、中尾勝二は「同購入代金五、三〇〇、〇〇〇円のうち二、二〇〇、〇〇〇円は原告の裏取引名称である池田商店から別途に支払われた。」ことを認め、その旨を記載した上申書(乙第四号証)を被告に提出したことが認められるが、前掲各証拠によれば新保喜一が乙第一号証を作成提出したのは、個人で新保商店を経営していた当時相当の収益をあげながら少額の所得税しか納付しておらず、しかも本件当座予金及び通知予金につき池田栄一という仮空名義を使用していたことに多少引目を感じていたところ、朝山教治より同族会社である原告の代表取締役新保喜一が同種の営業を営む池田商店を経営している以上、池田商店の収益は当然原告に帰属する旨説示されたので、今更本件当座予金の入金が池田商店の売上金によるものであるとして抗争しても勝目はなく、かえつてそのため税務職員による強制捜索を受けることになれば原告の営業に支障をきたすことになると判断し朝山教治の指示に従つたためであることが推認される。又前掲各証拠によると中尾勝二が乙第四号証を作成したのは、宮崎勉三が中島勝二に対し、「同族会社である原告の代表取締役たる新保喜一が商法第二六四条の競業避止義務に違反して池田商店を経営している以上、池田商店の営業による収益は法人税第三一条の三により原告に帰属するとみなされる」旨の説明をし、中尾勝二も右説明を正当なものと信じ池田商店が原告と別個独立の経営主体であつても、新保喜一が池田商店を経営している以上税法上池田商店の取引を原告の裏取引と認定されても仕方がないと判断したためであることが認められるから、新保喜一が乙第一号証を、中尾勝二が乙第四号証を作成、提出した事実から直ちに本件当座予金、通知予金及び定期予金が原告の簿外予金であると認定することはできない。

又本件当座予金、通知予金及び定期予金を原告の簿外予金と認定し、その期末残高を原告の申告所得額に加算した本件更正決定に対し、原告は何等不服申立せず昭和三〇年七月二三日右更正決定による差引法人税及び延滞利子税合計二、一六七、二〇〇円を納付した上、翌年度に右更正にかゝる増差所得金額のうち一、〇〇〇、〇〇〇円と定期予金二、二九七、六七九円を新保喜一に対する貸付金として原告帳簿に受入れ記入し、更に本件再更正決定による増差所得金額二、二〇〇、〇〇〇円のうち本件建物の減価償却費を控除した二、一五二、〇三一円を繰越利益剰余金として原告会社の資産に受け入れその旨の決算報告書を作成したことは当事者間に争がない。しかしながら成立に争のない乙第二、三号証に証人中島勝二及び同宇戸哲郎の証言並びに原告代表者本人尋問の結果(但しいずれも第一、二回)を綜合すると、原告が本件更正決定に対し不服申立をしなかつたのは、被告主張のように本件当座予金が原告の簿外予金であることを認めたためではなく、前記認定のとおり原告の代表取締役である新保喜一が池田商店を経営している以上、池田商店の取引を原告の裏取引と認定されてもやむおえないと速断しあえて抗争しなかつたにすぎず、又原告が前記認定のような帳簿処理をしたのは、原告が昭和三〇年七月二三日本件更正決定による差引法人税及び延滞利子税合計二、一六七、二〇〇円を納付し、更に昭和三二年二月二日頃までに、本件再更正決定による差引法人税及び延滞利子税合計一、八九一、八一〇円並びに差引市民税及び府民税を各納付したので、これらを原告の帳簿に受入れ記入するためであつて、真実原告に前記認定のような簿外資産があるものとしてかゝる帳簿処理をしたものとは到底認められないから、前記当事者間に争のない事実から直ちに本件当座予金等が原告の簿外予金であると認定することはできない。

更に成立に争のない甲第一一号証、乙第五号証の一ないし五、第六号証の二ないし七、証人朝山教治の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一に右証人の証言を綜合すると、本件当座予金には原告振出にかゝる金額一四六、八〇〇円の小切手が昭和二九年一二月九日に、金額一八〇、〇〇〇円の小切手が昭和二九年一一月二日に、金額六五〇、〇〇〇円の小切手が同年一二月三〇日に各入金されており、かつ原告の取引先である訴外竹馬産業株式会社他数名が原告に対する商品代金の支払として振出した約束手形数通が入金されていたこと、本件当座予金から池田栄一名義の小切手により昭和二九年五月一一日一〇〇、〇〇〇円、同年九月八日二五〇、〇〇〇円、同月七日七〇〇、〇〇〇円、同月二四日一五〇、〇〇〇円が各引出され原告の当座予金に入金されており、かつ池田栄一名義の約束手形又は小切手により本件当座予金から原告の取引先である訴外日覧織物、牧村株式会社、福応商事他数社に対し商品代金が支払われていることが認められる上、原告が丸勝商店より昭和二九年一二月三日買受けた本件土地建物の代金五、三〇〇、〇〇〇円のうち二、二〇〇、〇〇〇円が本件当座予金より支払われていることについては当事者間に争がない。しかしながら成立に争いのない甲第一六ないし一八号証に証人梅本健男、同宇戸哲郎(第一、二回)の証言を綜合すると、原告振出にかゝる前記金額一四六、八〇〇円の小切手は、原告が丸勝商店から買受けた本件土地、建物の所有権移転登記登録税一四三、六五〇円及び登記手数料等三、一五〇円の支払のため振出されたものであるが、新保喜一が先に右金員を立替支払つていたので、同立替金の弁済として右小切手が本件当座予金に入金されたこと、前記金額一八〇、〇〇〇円の小切手は本件建物の昭和二九年一〇月分の賃料及び本件土地、建物の代金内金一〇〇、〇〇〇円の支払のため振出されたものであるが、新保喜一が先に右金員を丸勝商店に立替払していたので、該立替金の弁済として右小切手が本件当座予金に入金されたこと、前記金額六五〇、〇〇〇円の小切手は原告の訴外三隆株式会社に対する商品代金内金の支払として振出されたものであることが認められるので、右各小切手が本件当座予金に入金されていることから直ちに本件当座予金が原告の簿外予金であるということはできない。そして前記のとおり新保喜一は池田商店名義で原告と同様毛織製品の仕入、販売を行い、その金銭の出納のため本件当座予金を利用していたのであるから、原告の取引先と毛織製品の仕入或は販売契約を締結し、その代金決済のため振出された約束手形又は小切手が本件当座予金に入、出金されるのは当然のことであるから、前記認定のとおり本件当座予金に原告の取引先の支払手形或は小切手が入金され、かつ本件当座予金から引出された金員が原告の取引先に支払われていても、そのことから直ちに本件当座予金の入金が原告の簿外売上金によるものであるということはできない。証人朝山教治(第一回)の証言によると、本件当座予金の入金のうちいくつかが、反面調査の結果、原告が池田商店名義をもつて取引したものの入金であることが判明したというのであるが、何らこれを具体的に裏付ける資料はなく、かえつて同証人の証言によると右は同人が本件当座予金が原告の簿外予金ではないかとの予断に立脚して池田商店名義の取引はすべて原告に帰せしめられるべきであるとの判定の下に判断した結果によることが窺われるからこれを証拠にとることはできない。又本件当座予金より引出され本件土地、建物の購入代金に充当された前記二、二〇〇、〇〇〇円は後記認定のとおり新保喜一が原告に贈与したものと認められるので、このことから本件当座予金が原告の簿外予金であることを推認することはできない。もつとも前記認定にかゝる本件当座予金の入出金関係より見ると本件当座予金と原告の当座予金(株式会社住友銀行心斎橋支店及び同三和銀行南支店における当座予金)の間にはかなりの資金交流があつたことが窺われるが、前記のとおり本件当座予金の入金は主として新保喜一の経営にかゝる池田商店の売上金によるものであることが認められるので本件当座予金、及び同予金から引出された金員をもつて設定された本件通知予金及び定期予金を原告の簿外予金と認定しその期末残高を原告の所得に加算する被告の主たる主張は失当たるを免れない。

四  被告の予備的主張について

1  被告は池田商店の営業は実質的には原告の営業の一部である旨主張するが、前記認定のとおり池田商店の営業は新保喜一個人が池田久光を使用して行つていたものであり、原告の営業の一部として営まれていたものでないからこの点に関する被告の主張は理由がない。

2  次に被告は池田商店の営業より生ずる収益は法人税第三一条ノ三により原告の所得額に加算されるべきである旨主張するのでこの点につき検討する。

被告は、新保喜一は商法第二六四条の競業避止義務に違反し原告と同種の営業を池田商店名義で営んでいたが、原告が同族会社であるため新保喜一の右競業行為につき介入権を行使せず、又右営業による利益を原告の計算に算入しないので、法人税法第三一条の三により原告の右介入権不行使、又は計算を否認する旨主張するが、法人税法第三一条の三は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると客観的に認められるときは、その行為計算にかゝわらず税務官庁は妥当と認めるところによつて当該法人の課税標準又は欠損金額を計算することができる旨を規定したものであるから、この規定によつて税務官庁が否認できる同族会社の行為又は計算は法人税の負担を不当に減少せしめる行為又は計算であることが必要である。しかして取締役が株主総会の認許を得ずして自己のために会社の営業の部類に属する取引を為した場合でも、その取引の効果は直接会社に帰属するものではなく、株主総会が商法第二六四条三項に基づき介入権を行使し、取締役をして取引の経済上の効果を会社に帰属せしめる義務を負わせるのみである。そして株主総会がかゝる介入権を行使するかどうかは株主総会の専権に属するから、その不行使を違法或は不当視することはできず、又実際上かゝる介入権の行使は複雑な利害関係に基づいて行われるものであるから非同族会社であれば必ず介入権が行使されるというものではない。従つて同族会社の株主総会が取締役の競業行為につき介入権を行使せず、会社がその取引の効果を当該会社の計算に算入しなかつたとしても、そのことが直ちに同族会社の法人税の負担を不当に減少せしめることにはならないからかゝる場合については法人税法第三一条の三は適用されないものといわなければならない。よつてこの点に関する被告の主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である。

3  被告は、原告は昭和二九年一二月三日新保喜一より二、二〇〇、〇〇〇円を贈与されたので、右受贈金を原告の本件事業年度の所得に加算すべきである旨主張するので次にこの点につき判断する。

原告は被告の右主張は民訴法第一三九条により却下されるべきである旨主張するが、本訴訟の全経過に徴してこれを見ると、右主張は必ずしも故意又は重大なる過失によつて時機に遅れて提出されたとは認められないので、この点に関する原告の主張は失当である。

又原告は、被告は本件当座予金を原告の簿外予金と認定しその期末残高を原告の所得に加算して本件更正決定をしたのであるから、その後に本件当座予金から引出された二、二〇〇、〇〇〇円が本件土地、建物の購入資金に充当されたことを知つたとしても原告に先の更正決定で認定した資産以外の新たな資産が発見されたとして、法人税法第三一条により再更正決定をすることは許されない旨主張するが、本件当座予金から支出された二、二〇〇、〇〇〇円が本件土地、建物の購入資金に充当されたことを贈与乃至は原告の純資産の増加と認定すべきであるという被告の主張は、本件当座予金が原告の簿外予金と認定できない場合の予備的主張であり、これを簿外予金と認定しつつ且つ贈与と認定せよと主張しているのではないのであるから、この点の原告の攻撃は被告の主張を正解しない誤解に基くもので失当である。なお原告の主張が被告が本件更正決定で一旦簿外予金との認定をしながら、再更正決定においてはこれと相容れない贈与と主張することが許されないとの主張であるとしても、再更正決定の性格がさきに判断したとおり当初の更正決定を消滅させて改めて当該年度の課税標準価額を決定するものである以上、再更正決定の理由においても、当初の更正決定の理由に拘束されこれと相容れない理由によつてはならないということはいい得ないから、いずれにせよ、原告の主張は失当である。よつて更に進んで新保喜一が昭和二九年一二月三日原告に対し二、二〇〇、〇〇〇円を贈与したかどうかについて検討する。

前記のとおり新保喜一はその所有に属する本件当座予金より二、二〇〇、〇〇〇円を引出し、これを昭和二九年一二月三日原告が丸勝商店より買受けた本件土地、建物代金の一部の支払に当てゝいることが認められる。原告は、新保喜一がかゝる支払をしたのは、代表取締役として原告の事業の発展を願い、将来会社が発展すれば右支払額以上のものが自己に対する高い給与又は報酬の形で戻つてくることを期待して右金員を原告に融資したものである旨主張し、新保喜一はその本人尋問(第二回)において右主張にそう供述をしているが、右供述は後記認定に照して信用できない。即ち成立に争のない甲第一号証の一ないし一九、第二号証の一、二、前掲乙第二、三号証に証人中尾勝二(第一、二回)、同梅本健男の証言並びに原告代表者本人尋問の結果(第一、二回)の一部を綜合すると、原告の帳簿及び決算報告書には新保喜一に対する二、二〇〇、〇〇〇円の借入金については何等記載されておらず、又原告は本件更正決定の結果、本件土地、建物の帳簿価額を三、一〇〇、〇〇〇円から五、二五二、〇三一円(もとの帳簿価額に新保喜一が支出した二、二〇〇、〇〇〇円から本件建物の減価償却費を控除した二、一五二、〇三一円を加算した金額。)に訂正したが、その際右二、二〇〇、〇〇〇円を新保喜一からの借入金として受入記帳せず、繰越利益剰余金として受入れ記帳していること、原告は昭和二九年一二月三日頃丸勝商店より本件土地、建物を代金五、三〇〇、〇〇〇円で買受けたが、丸勝商店の要望で表向きの売買価額は三、一〇〇、〇〇〇円とし、実際は五、三〇〇、〇〇〇円を支払う旨約したので、やむなく原告が表向きの売買代金三、一〇〇、〇〇〇円を、新保喜一が残額二、二〇〇、〇〇〇円を支払つたこと、原告は右の様な経緯で本件土地、建物を取得したのでその帳簿には本件土地、建物の取得価額を三、一〇〇、〇〇〇円と記載する他はなかつたが、新保喜一はこのことを知りながら同族会社である原告の経営者として、原告の発展を願い、あえて右二、二〇〇、〇〇〇円を出捐したことが認められ、右認定に反する証拠はない。以上認定事実を綜合すると新保喜一が出捐した二、二〇〇、〇〇〇円は原告に対する贈与と認めるのが相当であり、これを原告に対する貸付金であるとする原告の主張は理由がない。

五  従つて本件事業年度中に原告に二、二〇〇、〇〇〇円の受贈益があつたものと認められるところ、右受贈益は法人税法第九条に規定する総益金に該当するので、原告の所得金額に加算されなければならない。そして原告の本件事業年度における申告所得金額が二七、六一四円であることは当事者間に争がなく、又原告会社が損金に計上した新保喜一に対する仮払金一二〇、〇〇〇円及び二〇、〇〇〇円を原告の所得に加算することについては原告において明らかに争わないから、原告の本件事業年度における所得金額は右申告所得金額二七、六一四円に否認損金額一四〇、〇〇〇円及び贈与所得二、二〇〇、〇〇〇円を加算した二、三六七、六一四円となる。

六  留保所得金額、法人税額及び重加算税額

1  課税の対象となる留保所得金額 零

(一)  原告は前記のとおり法人税法第七条の二所定の同族会社であるから、課税の対象となる留保所得金額は、法人税法第一七条の二第一項により留保金額と当該事業年度終了の日における積立金の合計額から原告の資本の四分の一相当額又は一、〇〇〇、〇〇〇円のいずれか多い金額を控除した金額である。

(イ) 留保金額

留保金額は法人税法第一七条の二第一項により当該事業年度の所得金額から当該所得に対して課せられるべき法人税額(但し留保所得に対する税額に係る重加算税額を除く。)府民税額、市民税額及び原告が費用として支出した金額で所得の計算上損金に算入されない金額(社外流出額)の合計額を控除した金額による。

(1) 原告の本件事業年度の所得金額は前記のとおり二、三六七、六一四円である。

(2) 右所得金額に対する法人税額は一、四八二、〇六〇円である。

端数計算に関する法律第五条により前期所得金額二、三六七、六一四円のうち一四円を切り捨てた二、三六七、六〇〇円に法人税法第一七条一項一号所定の百分の四二の税率を適用した金額九九四、三九二円から原告が所得税法第一八条の規定により納付した所得税額三、七三二円(この点は当事者間に争がない。)を控除した九九〇、六六〇円に法人税法第四三条の二第一項により計算した重加算税額四九一、四〇〇円(申告所得金額と前記所得金額との増差額二、三四〇、〇〇〇円に対し法人税法第一七条一項一号所定の百分の四二の税率を乗じて計算した九八二、八〇〇円に同法第四三条の二第一項の規定による百分の五〇の税率を乗じて計算した額。)を加算した金額である。

所得金額 税率 納付所得税 重加算税

算式 <省略>

(3) 府民税額五〇、三一九円

前記所得金額に法人税法第一七条一項一号による百分の四二の税率を乗じて計算した九九四、三九二円につき、法人税率千分の五〇の割合を乗じた四九、七一九円(法人税割)に均等割六〇〇円を加算した金額

算式 <省略>

(4) 市民税額七六、九七九円

右地方税の課税標準額九九四、三九二円に対し法人税割の税率千分の七五の割合を乗じた七四、五七九円に均等割二、四〇〇円を加算した金額。

課税標準額 税率 均等割

算式 <省略>

(5) 費用として支出した金額で所得計算上損金に算入されない金額(社外流出額)が、原告が所得税法第一八条の規定により納付した所得税三、七三二円と役員賞与金五五、〇〇〇円とを合計した五八、七三二円であることは当事者間に争がない。従つて原告の留保金額は次のとおり六九九、五二四円となる。

(1)所得金額 (2)法人税額 (3)府民税額 (4)市民税額 (5)社外流出額

算式 2,367,614円-(1,482,060円+50,319円+76,979円+58,732円)=699,524円

(ロ) 原告の本件事業年度終了の日における積立金額が零であることは当事者間に争がない。

(ハ) 原告の同年度の資本金が三、〇〇〇、〇〇〇円であることは当事者間に争がないから、原告会社の資本の四分の一相当又は一、〇〇〇、〇〇〇円のいずれか多い金額は一、〇〇〇、〇〇〇円である。従つて原告の課税の対象となる留保所得金額は零である。

(イ)留保所得金額 (ロ)積立金 (ハ)控除額

算式 (699,524円+0円)-1,000,000円=0円

2  法人税額九九〇、六六〇円

前記所得金額二、三六七、六〇〇円に法人税法第一七条一項一号所定の百分の四二の税率を乗じた金額九九四、三九二円から法人税法第一〇条一項にもとずき原告が既に納付した前記所得税三、七三二円を控除した九九〇、六六〇円が原告の法人税額となる。

3  重加算税額

前記のとおり原告の本件事業年度における法人税額は九九〇、六六〇円であるところ、原告は本件更正決定に基づき既に同事業年度の法人税として一、三九三、二六〇円を納付しているから、本件再更正決定に基づき追徴される法人税額は零となる。よつて右追徴税額の存在を前提とする重加算税額の賦課決定は爾余の点につき判断するまでもなく違法である。

七  以上の次第で原告の本件事業年度の所得金額は二、三六七、六一四円、留保所得金額零、法人税額は九九〇、六六〇円であると認められるから、被告が昭和三一年一一月二九日付をもつてなした本件再更正決定のうち右金額を越える部分及び重加算税の賦課決定は違法であるからこれを取消し、原告その余の請求は理由がないからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 潮久郎 裁判官 元吉麗子)

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